とり合(二句一章・配合・二物衝撃)
「発句はとり合物也(あわせものなり)。二つとり合わせて、よくとりはやすを上手と云うなり。」
(森川許六著「篇突」)
発句(俳句)というものは、取り合わせによってつくるものです。
ふたつのものをよく取り合わせて、その二つが互いに触発し合って、ふたつが
出あった以上の新しい世界をつくる。それが上手な取り合わせというものです。
とり合:取り合わせ。配合・二物衝撃・二句一章。
切れる場所は一か所。
ーただし、上五・中七・下五のどこで切れてもかまいません。
ふたつの取り合わせが鮮やかであれば、印象のいい句になります。
具体的には、なるべく対立する言葉を選ぶ方がいいでしょう。たとえば、
大きいものと小さいもの、遠いものと近いもの、強いものと弱いもの・・・というふうに
対照的な視点から配合すると効果的です。
二句一章の例:
菊の香や奈良には古き仏たち 芭蕉
鰯雲人に告ぐべきことならず 加藤楸邨
(石寒太「芭蕉の言葉に学ぶ 俳句のつくり方」)
「発句のことは行きて帰る心の味はひなり。例えば、”山里は漫才遅し梅の花”といふ類なり。”山里は漫才遅し”と言ひはなして、梅は咲けりといふ心のごとくに、行きて帰るの心、発句なり」(三冊子)
取り合わせるときは、方向性の違うものを取り合わさなければならないのだ。
(大輪靖宏「俳句の基本とその応用」)
二句一章の芭蕉の名句
山路来て何やらゆかし/菫草 (野ざらし紀行)
水取りや/氷の僧の沓の音 (野ざらし紀行)
旅人と我が名呼ばれん/初時雨 (笈の小文)
草臥れて宿借るころや/藤の花 (笈の小文)
蛸壺や/はかなき夢を夏の月 (笈の小文)
行く春や/鳥啼き魚の目は泪 (おくのほそ道)
あらたふと/青葉若葉の日の光 (おくのほそ道)
夏草や/兵どもが夢の跡 (おくのほそ道)
五月雨の降り残してや/光堂 (おくのほそ道)
閑(しづ)かさや/岩にしみ入る蝉の声 (おくのほそ道)
五月雨を集めて早し/最上川 (おくのほそ道)
暑き日を海に入れたり/最上川 (おくのほそ道)
象潟や/雨に西施が合歓の花 (おくのほそ道)
文月や/六日も常の夜には似ず (おくのほそ道)
荒海や/佐渡に横たふ天の川 (おくのほそ道)
一家に遊女も寝たり/萩と月 (おくのほそ道)
石山の石より白し/秋の風 (おくのほそ道)
名月や/北国日和定めなき (おくのほそ道)
初時雨/猿も小蓑を欲しげなり (猿蓑)
山里は万歳遅し/梅の花 (真蹟懐紙)
鶯や/餅に糞する縁の先 (葛の松原)
秋近き心の寄るや/四畳半 (鳥の道)
菊の香や/奈良には古き仏達 (笈日記)