1.過去の「き」「けり」

意味

  「き」ー直接体験の過去・・・ありき(あった)

  「けり」ー伝聞的体験の過去・・・昔男ありけり(あったとさ)

  俳句の切れ字の「けり」ー詠嘆・・・放ちけり(放ったのだなあ)

 

「き」の活用

  未然形:(せ) ず
  連用形:〇 て
  終止形:き 
  連体形:し とき
  已然形:しか ど
  命令形:〇

  *未然形「せ」は、「せば・・・まし」の形にのみ使う。

      例:世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし

 

「けり」の活用

  未然形:(けら) ず
  連用形:〇 て
  終止形:けり 
  連体形:ける とき
  已然形:けれ ど
  命令形:〇

接続

  き・けりは、動詞の連用形に接続

  「き」が、カ変・サ変の動詞に接続する場合:

      動詞「来」の未然形「こ」+助動詞「き」・・・こし(連体形)・こしか(已然形)

      動詞「来」の連用形「き」+助動詞「き」・・・きし(連体形)・きしか(已然形)

      動詞「す」の未然形「せ」+助動詞「き」・・・せし(連体形)・せしか(已然形)

      動詞「す」の連用形「し」+助動詞「き」・・・しき(終止形)

「き」の例句

  流氷の沖に古りたる沖あり   斎藤玄(あった)

  秋の風むかしは虚空声あり   加藤楸邨(あった)

  死ねば野分生きてゐしかば争へり   加藤楸邨

  白藤や揺りやみしかばうすみどり   芝不器男

  桑の実や馬車の通ひ路行きしかば   芝不器男(行ったところ)

  濡れて來少女がにほふ巴里祭   能村登四郎(濡れたままで来た)

  おいて子ほどに遠き蝉のあり   中村汀女

  これを見にぞ雪嶺大いなる   富安風生

  かたや馬酔木咲く野の日のひかり   水原秋櫻子

  歩み人麦踏をはじめけり   高野素十

  黄海に黄河から魚影泳ぐ   金子兜太

  霜夜髪のしめりの愛(かな)しけれ   大野林火

「けり」(過去)の例句

  とまり木に老いける鷲や青嵐   水原秋櫻子(老いた)

  初富士の大きかりける汀かな   富安風生(大きかった)

「けり」(詠嘆)の例句

  旅烏古巣は梅に成りにけり   松尾芭蕉

  月のみか雨に相撲もなかりけり   松尾芭蕉

  猫の妻竃の崩れより通ひけり   松尾芭蕉

  春の夜は桜に明けてしまひけり   松尾芭蕉

  秋の色糠味噌壷もなかりけり   松尾芭蕉

  幾秋のせまりて芥子に隠れけり   松尾芭蕉

  道の辺の木槿は馬に喰はれけり   松尾芭蕉

  あきくさをごつたにつかね供へけり   久保田万太郎

  ある僧の月を待たずに帰りけり   正岡子規

  いくたびも雪の深さを尋ねけり   正岡子規

  あたたかきドアの出入となりにけり   久保田万太郎

  きびきびと万物寒に入りにけり   富安風生

  いち早く日暮るる蝉の鳴きにけり   飯田蛇笏

  あたたかき十一月もすみにけり   中村草田男

  鳴く蟲のただしく置ける間なりけり   久保田万太郎

  咲き切つて薔薇の容(かたち)を越えけるも   中村草田男

  白菊の白妙甕にあふれける   水原秋櫻子

  祭笛吹くとき男佳かりける   橋本多佳子

  香水の香ぞ鉄壁をなせりける   中村草田男